「心の声」は隠せない? ~音声病態分析技術の学校向け実証実験~

2022/03/11
バイオヘルスケア営業部 営業室

はじめに

新型コロナウイルスの感染が国内で初めて確認されてから2年が経ち、オミクロン株の流行により子供の感染も増える中、教育現場におけるメンタルケアが求められています。

こうした状況の中、三井情報は現在サービス化に向け取り組む、「音声病態分析技術」を用いて心の状態を可視化し心の健康衛生を支援するこころウェルネスサービスについて、某小学校のご協力をいただき実証実験を実施しました。今回のMKIナレッジではその結果をご紹介します。

三井情報が取り組むこころウェルネスサービス

三井情報は以下3つの機能を纏めたこころウェルネスサービスの提供に向けた取り組みを進めています。

①音声病態分析用アプリ「MIMOSYSⓇ」により人の「声」から心の状態を数値化
②数値化したデータを当社独自開発のアルゴリズムで分析し、メンタル不調者を検知
③各種外部データと心の状態の相関分析によるユーザの集団傾向分析

このサービスによりメンタルヘルス不調者を正確かつタイムリーに検知し、企業においては従業員のメンタルヘルス不調による経営へのダメージリスク低減、教育現場においては児童生徒や学生への適時なメンタルヘルスケアと教員の業務負担軽減等を実現します。

これまでの歩み

三井情報は、デジタル技術によって人の声から心の状態を客観的に解析・可視化する“音声病態分析技術”と出会ったことをきっかけに、その医学的・技術的検証を進める為、2014年9月より東京大学大学院医学系研究科に設置された「音声病態分析学講座」に協力し、同学との共同研究を重ねてきました。ここで蓄積された知見を活かし、コロナ禍が本格化し始めた2020年3月下旬から7月下旬にわたり、音声病態分析技術を搭載したスマホアプリによる実証実験を三井情報グループ内のテストユーザ132名に対して実施し、以下のような成果を得ることができました。

●東京大学大学院音声病態分析工学講座/徳野慎一教授の助言により当社が独自開発したアラートロジックを用いてメンタルヘルス不調の可能性がある従業員18名を早期に検出できた。
●人事部門が関与しない「リモートカウンセリング」の仕組みを提供したところ、カウンセリング利用率が通常の5倍になった。
●会社行事や気象条件、リモートワーク状況等の外部データとユーザのメンタルヘルス状態の相関分析を行った結果、「3か月のリモートワークが解除された日に社員のメンタルヘルスの状態が落ち込んだ」等、上司等には直接伝えられることのない“社員の本音”が分析できた。
●本サービスを試験導入したことでユーザのメンタルヘルスケアに対する意識が向上し、試験導入開始から約4ヶ月でメンタルヘルス状態を示すBDIスコア(ストレス検査におけるうつ傾向度レベルを示す点数)の平均値がユーザ全体で4%、アラート対象者で19%改善した。

学校における実証実験

コロナ禍におけるマスクの常時着用やオンライン授業の広がり等により、教育現場の環境は以前と大きく変化し、教員が児童生徒一人ひとりのメンタルヘルスの状態を、これまでどおり把握することが難しくなりつつあります。

一方で、学校行事の中止や学級・学年閉鎖等が児童生徒のメンタルヘルスへ与える影響が心配されており、適切なケアへのニーズが高まっています。かかる状況下、三井情報は学校向けにカスタマイズしたこころウェルネスサービス(以下  本サービス)を活用することにより、教育現場において以下の3点に貢献し得るかを検証するため、某小学校の協力の下、実証実験を実施しました。

①児童のメンタルヘルス把握とその傾向把握(子どもたちの声なき叫びを聴く)
②学校による児童へのより適時のメンタルヘルスケアの提供
③児童のメンタルヘルス把握にかかる教員の業務負荷軽減(職場環境改善の一助)

今回の実証実験では、読書の習慣化を目的とし当該小学校で実施されている「朝読書」の時間に、児童に「おはようございます」等の短いフレーズを発話してもらい音声を計測しました。計測対象の児童は1年生から6年生までの6クラス・計53名。そのうち音声計測を実施した1か月の間にアラート状態が検出された児童は10名となりました。

終了後、実証実験に参加したクラスを担任する教員に対し本サービスを試用した感想・意見等についてアンケート調査を実施したところ、全員から、本サービスは児童のメンタルヘルス不調者の発見に役立つという回答が得られました。主な理由として「教師の主観や見落としを補うものとして有効。」「様子を外見で観察しただけでは解らないことを知ることができる。」等、主観的に観察するだけではメンタルヘルス不調者を発見できない場合がある為、これを補うものとして役立つという趣旨の回答が多くありました。




次に、本サービスによってアラートが検知された児童に関して、教員自身の認識においてもメンタルヘルスの不調を感じる児童であると思うか質問したところ、約7割が「「やや思う」と回答しました。理由として、「気になる子の数値が低いことがある」といった回答のほか、「数値が低いことからもしかしてと感じるようになった」等、計測結果や数値の変化から、気になる児童への観察を深めることができたという意見が見られました。




 

また、「疲れ気味と判定された児童が、自分で『今日は休みたかった』と話すなど、関連性を実感できた。」等、全ての教員が本サービスを利用したことによって、これまで気づかなかった児童のメンタルヘルス不調を発見することができたと回答しました。

 



さらに、8割の教員が「自身の感覚」と同等もしくはそれ以上に本サービスがメンタルヘルス不調者の早期発見に役立つと回答し、自由回答欄でも、それぞれ有用性があるので両方を大切にしたいという趣旨の回答がありました





加えて、現地の気象情報等との相関分析を試みたところ、児童のメンタル状態に日照時間や気温等の気象条件が影響を与えている可能性が見えてきました。

一方、音声計測期間中の学校行事や一般報道と児童のメンタル状態との相関性を学年毎に時系列グラフにし、これらのイベント実施やニュース等が同校児童のメンタル状態に影響を与えている可能性について可視化したところ、学校側より「学年毎の傾向が分かるのは非常に助かる」との声をいただききました。

おわりに

常態化する長時間労働に加え、コロナ禍で感染対策やオンライン対応などの業務により、教員は多忙を極めています。加えて、様々な体験機会を奪われた児童のストレスも増す中、学校等教育現場におけるメンタルヘルス不調の早期発見は、一層難しくなっていると考えられます。

今回の実証実験の結果より、こころウェルネスサービスは教育現場において「複雑化する児童の心の健康状態の正確かつタイムリーな把握」「業務負担の軽減」に貢献し得ることが確認できました。

三井情報は、「子どもたちの声なき叫び」を把握することで、一人でも多くの子供たちの心のケアと教員の負荷軽減という2つの社会課題の解決を実現するために今後も取組みを継続していきます。

執筆者

お問い合わせ

ページTOP
当ウェブサイトでは、サイトの利便性やサービスを改善するため、Cookieを使用しております。このまま当ウェブサイトをご利用になる場合、Cookieを使用することにご同意いただいたものとさせていただきます。Cookieに関する情報や設定については「個人情報保護方針」をご覧ください。 同意して閉じる